ドメニコやグリエルモら舞踏教師の教えや振付を書き残した写本は、記載されている踊りが写本ごとに異なったり、あるいは写本の作られた土地の当時の言葉（古語×方言ですね）で書かれていたりと、本職の研究者も大変な思いをするそうです。なんと言っても貴重書ですので、現物を見る機会も限られていますが、1980年代の終わりごろから、バルバラ・スパルティや故アンドレア・フランカランチなどの優れた研究者がこれら貴重史料の読み解きに着手し、当時の音楽と踊りを一緒に再現する試みが行なわれるようになりました。この原稿もスパルティ女史の著作を参照しながら書いています。

この時代の踊りは、ブルゴーニュやフランスのバス・ダンス教本のところでも書いた 「片足を一歩踏み出して、反対の足をそれに揃える」 「３歩あるいて、４歩目で両足を揃える」（これで小さな円を描くこともあります） 、あるいは「右、左と両足に体重を交互に乗せ替える」など、ひとつひとつのステップはとても小さく、講習会などを受講していても「地味」な踊り、と思われることが多いのですが、当時の宮廷の人々が着ていた衣装は、裾を引きずるほど長いスカートや、教会の尖塔のように細長い帽子、男性でもたっぷりとした幅のあるマントなど、重厚なものでした。だから「自由に大きく動けなかった」と言う人もいますが、反対に「ほんの小さな身ぶりでも、衣装がそれを増幅して伝えてくれるので、大きく動く必要がなかった」と考えることもできます。声楽が圧倒的な優位を占めていた中世に比べて、この時代は器楽が独自の地位を占めるようになり、即興の要素も多く残した興味深い楽曲が多数残されるようになりました。もっと注目されてもよいと思います。生演奏・衣装つきのパフォーマンスなど、機会がありましたら是非ご覧になって下さい。